民主党政権3年3か月の研究

悪夢でした。二度と政権をとらせてはいけません。だから記録します。

◇郵政改革、それぞれの思惑

しかしなぜ民主党政権は、これまでに小泉郵改革のちゃぶ台返しに執着するのでしょうか?そこには、いろいろな利権が折り重なっているように感じました。この図を見てください。2019年7月の郵政民営化の状況の図です。朝日新聞からお借りしました。

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顧客から罵声、給与は減…かんぽ不正対応を嘆く郵便局員 [かんぽ不正]:朝日新聞デジタル

 持株会社日本郵政の下に日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の3社、全4社体制。日本郵便の株は100%、ゆうちょ銀行89%、かんぽ生命65%を日本郵政保有する形になっています。その配下にJP労組全国郵便局長会がぶら下がり、それぞれ立憲民主党自民党を支持している形です。

小泉郵政民営化に当たって、いろいろな既得利権がぶつかりあい、自民党内に造反議員が出現、その後も西川社長への抵抗勢力が民営化にブレーキをかけ、政権交代で民営化反対陣営が活気を取り戻した。そんな感じだったのでしょう。気になった記事をいろいろな角度から紹介していきます。

まずは、とてもわかりやすく当時の構図を説明されている町田徹氏の記事です。ゆうちょ、かんぽの金融サービスをユニバーサル化、地方の小さな郵便局にまで広げるために完全民営化をやめて、再国有化することがわかります。

郵政民営化JAL支援、鳩山政権2つの「白紙撤回」の功罪 2009.10.23  ジャーナリスト町田 徹
小泉・竹中路線を全否定、民営化撤回が意味するもの

・・・(略)

 小泉・竹中路線からの決別として最も目を引くのが、「郵便、郵便貯金簡易生命保険の基本的なサービスを全国あまねく公平に郵便局で一体的に利用できるようにする」と明記した点である。実はこれまでの西川体制では、最も重視されていたのは、ゆうちょ銀行の収益力だった。このため、実際に、山間・離島などのへき地の郵便局を閉鎖したことはほとんどないものの、いずれはこうしたゆうちょ銀行にとっての不採算郵便局を閉鎖したいとの本音が見え隠れしていた。

 それに対して、今回は、郵便だけに限定されていたへき地でのサービスの提供義務を、ゆうちょとかんぽの2金融サービスにも広げたわけである。

 このことは、個別の郵便局の経営という観点からみると、へき地で採算の悪い郵便局であっても、ゆうちょ銀行やかんぽ生命はサービス維持のために窓口を保有していかなければならず、ゆうちょ銀行やかんぽ生命から一定の手数料収入を獲得し続けられることを意味しているのだ。・・・(略)

https://diamond.jp/articles/-/2629 週刊ダイヤモンド

岸博幸氏の記事は、民主党政権の組合などのしがらみを教えてくれます。

労働組合の顔色ばかりうかがう民主党の政策が日本をダメにする 2010.2.19 3:00 博幸
「郵政改革素案」に見る労働組合特定郵便局長会への過剰配慮

 郵政改革(事実上の再国有化を“改革”と言えるのか甚だ疑問ですが)についても同じです。先週公表された“郵政改革素案”ではまだ詳細な制度設計は示されていないので、具体的な問題点の指摘は控えますが、全体として特定郵便局長会や労働組合への配慮がすごく感じられます。
 例えば、政権として日本郵政の構造を、金融事業(郵貯簡保)の黒字で郵便局と郵便事業の赤字を補填する公社時代の構造に戻そうとしていますが、そうした構造は、郵便局や郵便事業が単体として黒字化に向けて頑張るインセンティブを大きく損なうことになります。特定局長や労働組合にとってはこれほど心地よいことはありません。
 また、税負担の減免などが明示されていますが、これは明らかに特定局長の利権温存です。20数万人もいる非正規社員を正規社員にする方向も示されていますが、それは労働組合にとっても、組合員の数を大きく増やせるので非常に良い話です。
 一方で、範囲が異常に拡大されたユニバーサル・サービスのコストを賄うために政府が負担する額、即ち国民負担はまったく明示されていません特定局長や労働組合という一部の人たちの既得権益を維持するために、膨大な国民負担を強いようとしているのです。

 https://diamond.jp/articles/-/6682?page=2週刊ダイヤモンド

 一方、民主党側からの視点もご紹介しましょう。民主党アーカイブからです。

衆院本会議】郵政改革法案趣旨説明 高井崇志議員が質問 小泉郵政民営化は失われた4年2010/05/18
 衆院本会議が18日夜開かれ、郵政改革法案、関連2法案の趣旨説明がなされ、民主党・無所属クラブを代表して高井崇志議員が質問に立った。
 趣旨説明に立った亀井静香郵政改革担当大臣は、この法案は、国民の共有財産である郵便局ネットワークを維持することを目的とするものとした。
 冒頭、高井議員は、「がっかりした。野党の皆さんに前向きな国会にしようと訴えるつもりだったが、またしても退席した。もはや申し上げる言葉はない。同じ国会議員として恥ずかしい限り」と、職場放棄、国会議員としての責務を放棄した野党議員を論難した。
 次に、高井議員は、自らが郵政職員であったことも踏まえ、郵政民営化2005年の郵政解散後の4年間は「我が国にとって失われた4年間」となったとして、亀井大臣に、郵政民営化で国民生活が良くなったかを質した。
 亀井大臣は、小泉民営化を、「無謀とも言っていい、アメリカからの一方的と言ってもいい民営化を5年前に強行した。結果は多弁を要しない。ネットワークはズタズタにされ、職員のモラルは低下に低下し、監視カメラで監視される職場で郵政事業がうまくゆくはずがない。国の未来を見据え、地域社会、国家、世界に貢献する郵政事業を育て上げる。43万人職員の半分以上の人が同じような仕事をしながら3分の1給料で働いている。与党3党で具体的な協議をし、こうした雇用形態を変えることも検討している。人間を大事にする郵政こそ有益」と答えた。
 また、高井議員は、郵便局ネットワークを維持するには、税金を投入するか、ゆうちょ、かんぽの限度額を引き上げるかしかないとして、原口一博総務大臣に郵政改革の意義を質した。原口大臣は、「国民の権利の保障が意義」と答え、さらに、「我々は郵政事業にとりついた白アリを退治する」としたうえで、「税を入れないモデルをつくる。郵政の3事業一体が狙いだ」とした。
 最後に、高井議員は、原口大臣に「郵政事業の経営形態はこの10年で5回も変わることになる。このような不幸なことが2度と起きないよう我々政治家は、こうした一つの問題をのみを取り上げて政争の具とする愚かなことは避けなければならない」として、「どのような郵政事業を築いていくか」とこれからの決意を質した。

 原口大臣は、小泉改革ファシストの発想だと批判して、明治の初期、民間がおカネを出して郵便局という公を作ったことを紹介し、「発展する郵政を目指す」と答えた。

http://www1.dpj.or.jp/news/?num=18202民主党アーカイブ

まぁ組合へのリップサービス満点の国会での身内同士の答弁だったようですね。原口総務大臣は、「白アリ」だとか「ファシスト」だとか小泉民営化をぼろくそ言ってますが、この後郵政改革法案を参院選のために先送りをして「裏切者」と罵られることになります。

3月に民主党政権が発表した「郵政改革法案」の骨格でも郵政グループ非正規10万人の正社員化を目指すと、支持母体のJP労組リップサービスたっぷり感いっぱいです。

 鳩山政権 郵政グループ非正規10万人の正社員化めざす 改革法案 2010年3月24

 亀井静香郵政改革相と原口一博総務相は24日、「郵政改革法案」の骨格を正式発表した。日本郵政グループを現在の5社から3社に再編し、株式の一定割合を政府が直接、間接的に保有し続ける。同グループの非正規社員の半数近い約10万人の正社員化を目指す方針も表明した。
 現在の持ち株会社日本郵政と郵便局、郵便事業会社を統合して「親会社」とする。政府は親会社の株式の3分の1超を保有し続けることで、会社の重要な決議の拒否権を握る。人事権を握る2分の1超の保有も検討したが、経営の自主性を高めるために出資比率は3分の1超に落ち着いた。金融2社の株式は親会社が3分の1超を保有し続ける。原口氏は「自主性を極力重んずるとともに民業圧迫にならないよう考えた」と説明した。
 今回の郵政見直しで、政府は親会社や金融2社の将来の株式上場を否定していないが、上場の時期については示していない。政府の後ろ盾を得た官業金融の拡大路線が「民業圧迫」との批判を浴びるのは避けられそうもない。

http://www.asahi.com/seikenkotai2009/TKY201003240164.html(朝日)

 この時、同時にゆうちょ銀行の預け入れ限度額(現行1000万円)を倍増の2000万円に引き上げることも発表されています。それも含めて、政府の後ろ盾を得た官業金融の拡大路線が「民業圧迫」と批判がでるのですが、それが旧態然とした組織を残すことになり、新しい保険商品開発ができずに競争力を失い、ノルマでがんじがらめになって、かんぽ生命の不正を産んでしまったという皮肉な結果となるのです。

最後に日本郵政の齋藤社長の記者会見をみてみましょう。

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2010年5月7金曜日 日本\郵政株式会社 社長会見の内容
【社長】地域性、地方の振興というのが重要であるということについては、ゆうちょというのは全国至るところにあって、民間の、例えば銀行がないような地域にも郵便局はあるという意味で、その地域の振興というか、地方の活性化というか、それは私どものいわば商機というか、商売のチャンスになると思っていますので、これが私どもの足かせになるとは思っておりません。いずれにせよ、私どもは、ユニバーサルサービスを維持するということで、全国的に郵便とゆうちょと保険のネットワークをめぐらさなければならないわけですから、そのポジションをむしろ有利に利用して、地域振興というか、地方の再生ということを商機に結びつけるチャンスであると考えています。
それから、ユニバーサルサービスと申しますが、今の民営化の会社の全国の郵便局の機能というのは、実はユニバーサルサービスそのものでございまして、特に地方の小規模な郵便局の場合、その主な仕事はむしろ貯金と保険の業務にあるのです。というのは、配送事務は郵便事業会社がやっておりますから、郵便については、窓口で切手を売るとか、はがきを売るとかいうことでして、地方の小規模な郵便局は、実は仕事の過半は貯金とか保険の業務にあるということも事実なのです。
したがって、ユニバーサルサービスのコストというのは、それだけ従来に比べて特に増えるというような要素はそれほどないと私は思っておりますので、今までの経営をそのまま続けていけば足りるのではないかと思っております。
もちろん経営者としては、税金が安いのはありがたいわけですから、それは少なくとも会社間の取引の消費税については減免していただければありがたいと思っておりますが、どうしてもそれが必要だという切実な考えを持っているわけではありません

https://www.japanpost.jp/publication/2010/0507_001.html日本郵政

ユニバーサルサービス、地方の隅々にまで郵便と金融の両サービスを届ける、金融部門の完全民営化を放棄することを前提にした発言なのでしょう。西川前社長が収益、採算性を重視していたのと一線を画すことを重視しているように感じます。最後に消費税の減免に言及しているところあたりが、民間ではない元官僚の甘えが現れているようです。

実は、日本郵政はこの日に「非正規社員の正規社員への採用の推進について」というプレスリリースも発行しています。https://www.japanpost.jp/pressrelease/jpn/2010/20100507102445.html日本郵政

非正規社員向けの正社員採用への募集要項です。3年以上勤続などの条件です。募集人員などは発表されなかったようですが、65000人程度と言われています。

これらの発表は、民主党政権になって、「小泉郵政民営化にブレーキをかけているでしょ?ちゃんと仕事してるでしょ?政権交代してよかったでしょ?」というJP労組特定郵便局長会へのアピールなのでしょう。

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しかし、この後郵政改革法案を衆議院強行採決までするのですが、鳩山総理の辞任に伴い、菅内閣が発足して支持率がグーンと回復すると、郵政改革法案のために会期延長するよりは、支持率落ちないうちに参議院選挙に突入したいと色気をだして、先送りにしてしまうのです。

日本郵政の齋藤社長はもとより、JP労組特定郵便局長会など待ちに待っていた人々の梯子を外す形になりました。もちろん激怒する人続出です。

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