企業再生支援機構のもと、JALは2010年1月19日に会社更生法の適用を申請します。企業再生支援委員長。瀬戸英雄弁護士の指揮により、経営の建て直しが進めらます。更生計画に基づき、金融機関による債権放棄(5215億円)と支援機構からの公的資金の注入(3500億円)を受け、株式は100%減資されました。こうして、JALは2月20日に上場廃止。個人投資家の株券は紙切れになったということです。
この辺の経緯は、国土交通省・航空局の参考資料「日本航空の再生について」平成24年11月にまとめられています。一部を抜粋します。
再生のための措置
▼企業再生支援機構による出資(3,500億円)
▼債権放棄の実施(5,215億円)
▼既存株式の100%減資
※企業再生支援機構によるつなぎ融資(800億円)
※日本政策投資銀行によるつなぎ融資(2,800億円)
(※)更生計画策定前に実施
再生のための取り組み
▼事業規模の縮小
・国際線4割削減
・国内線5割削減
・機材数を5割削減
・運航機種数の削減
・貨物専用機の運航休止
▼人員削減(48,000人→32,000人)
▼人件費削減(約2割)
▼企業年金削減(現役約5割、OB約3割の削減)
▼子会社の売却(110社→60社)
http://www.mlit.go.jp/common/000987884.pdf(国交省)
JALのOBが企業年金の削減に抵抗しているというような報道に記憶があります。本人にとっては、大問題でしょうが、国民からすると公的資金投入という前提からすると「ゼロでも文句は言えまい」と言うのが本音です。ちなみに私が昔務めていたシャープは、経営破たん時に公的資金の導入など全くなく、外資に買われていきました。不公平感ありありです。
さて、この後JALはV字回復を果たします。その立役者は京セラの創業者・稲森和夫氏です。国土交通大臣・前原氏の後援会長でもありました。この稲盛氏は、JALの会長に無給で就任します。官僚化された組織、大胆なリストラ大ナタをふるっていきます。その素晴らしい手腕は書籍等で紹介されていますので、ここでは触れません。その根幹となる「JALフィロソフィー」を紹介したいと思います。
週刊ダイアモンドのインタビューで「JALフィロソフィー」について稲盛氏はこう語っています。
よく経営者は孤独だといわれるが、私も27歳で京セラをつくっていただいたとき、この会社をつぶすようなことになったら大変だと非常に心配だった。経営者になってみたら、いろんなことを自分で考え、決めないといけないのに、何の自信もない。そうすると非常に孤独感に陥るわけですね。
そのときに私は、私と同じように経営について全身全霊で心配する“分身”のような人が何人かおってくれればいいのになと思った。孫悟空の話の中に、鼻毛を抜いてフッと吹いたら分身が出てくる。あんなふうに、私と同じ考え方、判断基準、価値観を持った分身が欲しい。だから、私の人間としての考え方をまとめて、みんなに話をしていった。そうやってつくったのが「フィロソフィ」です。
それで大西賢くん(当時社長、現会長)に京セラのフィロソフィを渡して、これを参考にJALフィロソフィをつくってみてくれと言った。彼らは十数人で、2ヵ月くらいかかってつくり上げました。
https://diamond.jp/articles/-/37468(週刊ダイヤモンド)
現在JALホームページで紹介されている「JALフィロソフィー」です。
全員が持つべき意識・価値観・考え方 JALフィロソフィ
私たちは一人ひとりの意識を変えていくことが必要と考え、JALのサービスや商品に携わる全員がもつべき意識・価値観・考え方として、JALフィロソフィを策定しました。これにより、私たちは同じ価値観をもち、判断および行動をしていくことで、全員が心をひとつにして一体感をもって、お客さまに最高のサービスを提供し、企業価値を高めることで、社会の進歩発展に貢献していくよう全力を尽くしていきます。
第1部 すばらしい人生を送るために
第1章 成功方程式(人生・仕事の方程式)
人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力
第2章 正しい考え方をもつ
人間として何が正しいかで判断する
美しい心をもつ
常に謙虚に素直な心で
常に明るく前向きに
小善は大悪に似たり、大善は非情に似たり
土俵の真ん中で相撲をとる
ものごとをシンプルにとらえる
対極をあわせもつ
第3章 熱意をもって地味な努力を続ける
真面目に一生懸命仕事に打ち込む
地味な努力を積み重ねる
有意注意で仕事にあたる
自ら燃える
パーフェクトを目指す
第4章 能力は必ず進歩する
能力は必ず進歩する
第2部 すばらしいJALとなるために
第1章 一人ひとりがJAL
一人ひとりがJAL
本音でぶつかれ
率先垂範する
渦の中心になれ
尊い命をお預かりする仕事
感謝の気持ちをもつ
お客さま視点を貫く
第2章 採算意識を高める
売上を最大に、経費を最小に
採算意識を高める
公明正大に利益を追求する
正しい数字をもとに経営を行う
第3章 心をひとつにする
最高のバトンタッチ
ベクトルを合わせる
現場主義に徹する
実力主義に徹する
第4章 燃える集団になる
強い持続した願望をもつ
成功するまであきらめない
有言実行でことにあたる
真の勇気をもつ
第5章 常に創造する
昨日よりは今日、今日よりは明日
楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する
見えてくるまで考え抜く
スピード感をもって決断し行動する
果敢に挑戦する
高い目標をもつ
https://www.jal.com/ja/outline/conduct.html(JAL)
稲森イズムを感じます。それまでのJALの社員には持ち得なかった経営思想であり、新鮮に響いたに違いありません。これらを机上だけでなく、実践してしまえるのが稲盛氏の経営者としての力量です。
しかし、一方でこの稲盛氏による企業再生支援機構の私物化疑惑が浮上します。自民党の小野寺五典氏(衆・宮城6区)のツイートで指摘されています。 これもマスコミは取り上げず大きな問題とはなりませんでした。
2011年3月13日のツイート
本日の自民財務金融部会で、政府出資の企業再生支援機構予算の99%がJALとウィルコム救済に使われていることが明らかになりました。このため、本来支援されるべき中小企業救済がなされていません。
救済後のJAL会長には稲盛氏が就任、救済されたウィルコムの最大株主は京セラでした。稲盛氏は当時国土交通大臣だった前原氏の後援会長。前原氏と稲盛氏との関係が不明瞭だとの声がでました。