2019年7月、かんぽ生命保険の不正問題が明るみにでました。西日本新聞です。
かんぽ不正契約9万件 二重払い分返還へ 「顧客に不利益」社長が謝罪 2019/7/11
かんぽ生命保険が保険料を二重払いさせるなど顧客に不利益となる不正な契約を繰り返していた問題で、同社の植平光彦社長は10日、東京都内で記者会見し「多数の顧客に不利益を生じさせ、信頼を損ねたことに関し、深くおわびを申し上げる」と謝罪した。顧客に不利益が生じた契約は9万件を超えており、2007年の郵政民営化以降、最大の不祥事。金融庁は事態を重くみて、業務改善命令などの検討に入った。
かんぽ生命は当初、顧客が同意しているとの理由で「不適切な販売ではない」としていたが、西日本新聞が二重払い問題を報じたことなどを受け、これまでの姿勢を一転させた。・・・(略)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/526102/(西日本新聞)
この不正に対し、経済学者の高橋洋一氏は「民主党政権による郵政の再国有化」がその原因だと指摘しています。少し長いですが大事なところなので抜粋させて頂きます。週刊現代からです。
かんぽ生命の不正販売、背景にある民主党政権「郵政再国有化」の真実
「ノルマ」に頼る構造はなぜ生まれたか 髙橋 洋一
「民営化の歪み」が原因ではないかんぽ生命に、顧客に対し新旧契約の保険料を故意に6ヵ月以上二重払いさせるなど、かなり悪質な不正が多数発覚している。
かんぽ生命の顧客数は約2600万人だが、不正契約件数は実に約9万3000件にのぼるという。被害に遭った顧客のほとんどは高齢者層である点も悪質だ。「常套手段」とされていたのが乗換時の不正で、保険の二重契約(2万2000件)、無保険期間を作る(4万7000件)といったものだ。
被害者からは、「80歳代の母が、かんぽ保険の乗換で被害に遭い、30万円の不利益を被った。母は郵便局を信頼していたから、貯めたお金を言われるがままにだまし取られた」との声も上がっている。郵便局というブランドを信じていた人々の心を踏みにじる、詐欺的な行為だ。被害総額の詳細は、まだわかっていない。
この種の話が出ると、「郵政民営化による歪み」のために不正が起こったという、早とちりの意見がすぐに上がる。しかし経緯を調べれば、このような見方がすぐに間違いだとわかる。
マスコミの報道だけしか知らない人は「郵政は民営化された」と思い込んでいるが、実は民主党政権時代に「再国有化」されているのだ。不正の発端も、そこに潜んでいる。どういうことか説明しよう。
筆者は小泉政権時代、郵政民営化の制度設計を担当した。まず、郵政民営化が実行された理由をあらかじめ書いておきたい。マスコミはこの基本を理解していないし、そのせいで国民は郵政民営化の背景を知らなすぎるからだ。
民営化前の郵政は、(1)郵便事業、(2)郵貯事業、(3)簡保事業を営んでいた。しかし、郵便はインターネットの登場によりジリ貧、郵貯は貸出部門がなく、簡保は100年前の不完全保険である「簡易保険」しか商品開発できず、いずれの事業でも経営問題が起こることは時間の問題だった。
こうした経営問題を抱える事業を維持するためには、年間1兆円もの税金補填(ミルク補給)が必要だった。それでも、いずれ郵政が経営破綻するのは確実だった。このあたりの詳細については、拙著『財投改革の経済学』に記してあるのでご覧いただきたい。
小泉政権が成立させた郵政民営化法では、(1)日本郵政という持株会社の下に、郵便会社、郵便局会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命を設けること(4社分社化)、(2)日本郵政への政府株、郵便会社と郵便局会社への日本郵政の株式をいずれも維持しつつ、ゆうちょ銀行とかんぽ生命では、日本郵政の株式をすべて売却する(完全民営化)としていた。
こうした民営化を通じて、郵便会社と郵便局会社には「郵便」以外の事業展開を、ゆうちょ銀行にはまともな貸出を、かんぽ生命には「簡易保険」以外の商品開発を促そうとしたのだ。それと同時に、年間1兆円にのぼる血税からの「ミルク補給」も打ち止めにしようとした。
郵便局会社を作ったのは、そこで簡易保険だけではなく、他の民間生保の商品も販売できるようにしないと、郵政全体の経営が危うくなるからだ。後で詳しく述べるが、郵政民営化の制度設計当時から、簡易保険の商品性はあまりにお粗末であり、経営上簡易保険以外の商品も売る必要に迫られていた。
事実上、また「国有」に
しかし、2009年に政権交代が起こった。民主党政権は、この民営化スキームを変更して、郵政を事実上「再国有化」した。つまり、(1)日本郵政という持株会社の下に郵便会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命を設けること(3社分社化)、(2)日本郵政への政府株、郵便会社、ゆうちょ銀行とかんぽ生命への日本郵政の株式はいずれも維持する(非民営化)としたのだ。公的事業の民営化のキモは、株式の民有化、経営の民間化である。郵政3事業にはすべてに政府株が係っている。しかも、小泉政権時代の民営化の際、民間から西川善文元住友銀行頭取ら20名程度の民間人が入った。まじめに経営しようとすれば、この程度の人員がいなければ、郵政のような巨大組織は運営できない。この意味で、西川氏は本気で郵政を民営化しようとした。
しかし、上述のように民主党政権で民営化は否定され、「再国有化」された。特に痛かったのは、政府株だけではなく、小泉民営化で馳せ参じてきた民間人もすべて追いだされたことだ。
さすがに、民間人なしではマズイと思ったのか、お飾り程度の人材は来たが、西川氏のように大量に腹心を連れてくるようなことはなく、ほぼ一人で来て、あっという間に元郵政官僚に籠絡されるのがオチだった。その後民間では、民主党政権時代に、郵政へ送り込まれた民間人が追い出された事実が知れ渡ったから、経営の心得がある人材は誘われても敬遠するようになった。どちらかといえば、小粒な民間人が単発で来るようになったことも、郵政が実質的に「再国有化」されたことを物語っている。
要するに郵政は、小泉政権時代に民営化されたが、民主党時代に再国有化され、事実上、以前の国営とたいして変わりなくなったのだ。今回のかんぽ生命の不祥事を考える上で、この点をおさえておかなければいけない。
激化する競争に勝てるはずもなく、郵政が改革をサボっている間に、保険市場は激変した。・・・(略)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66169(週刊現代)
小泉氏が目指していた完全民営化を、民主党政権が中途半端な半民営化に戻し、その人材を追い出してしまったことが原因で再国営化ともいえる組織になってしまい、それが今回のかんぽ生命の不正の原因となったことがわかります。
この郵政改革法案は、鳩山政権において衆議院で強行採決までしたのでしたが、菅政権への移行の際に党内のゴタゴタにより先送りされました。その後2年を経て野田政権において成立します。これが高橋氏の言う再国有化です。
民主党政権による郵政改革は、小泉郵政民営化のちゃぶ台返しであり、将来に禍根を残すおきみやげでもあったわけです。その過程を次から見ていきます。
なお、かんぽ生命の不正問題については、こちらの荻原博子氏の記事も興味深いので参考にしてください。民営化前からこの組織は悪の巣窟だったと指摘しています。