東日本大震災の際に、最悪の事態、首都圏での避難を想定して菅首相談話の草案が作られたという記事が2016年2月に東京新聞に掲載されました。この草稿を作成したのは、内閣官房参与の平田オリザ氏です。
ここでは、その評価はしません。記録のために残します。これが現実にならなくてよかった。その事実を素直に喜びたいと思います。
こども全国ネットさんのページに記事と草稿の全文が載っていましたので引用させていただきます。(記事そのものはリンク切れです)
「原発事故 政府の力では皆様を守り切れません」 首都圏避難で首相談話草案 2016-02-20
二〇一一年三月の東京電力福島第一原発事故の際、首都圏で大規模な避難が必要になる最悪のシナリオに備え、当時の菅直人・民主党政権下で首相談話の作成が極秘に行われていたことが分かった。
本紙(東京新聞)が入手した草案には「ことここに至っては、政府の力だけ、自治体の力だけでは、皆様(みなさま)の生活をすべてお守りすることができません」などと万策尽きた状況を想定した部分もあり、原発事故直後の政府内の危機感をあらためて示している。
草案を作成したのは、民主党政権で官邸の情報発信担当の内閣官房参与を務めていた劇作家の平田オリザ氏。当時、文部科学副大臣だった鈴木寛・元民主党参院議員が原発事故発生から一週間後の一一年三月十八日、作成を依頼し、平田氏は二日後の二十日に書き上げた。
四百字詰め原稿用紙七枚に相当する約二千八百字の長文で、避難の範囲といった具体的な数値については、発表時の放射性物質の拡散状況に対応できるよう「○○キロ圏内」などとした。
赤字で「重要原稿草案 2011・3・20」と書かれた草案は冒頭、政府の責任を認めて謝罪し、原発を所管する経済産業省や東電の責任追及を約束。その上で「国民のみなさまの健康に影響を及ぼす被害の可能性が出てまいりました」などと避難を呼び掛けた。
パニックを警戒し「西日本に向かう列車などに、妊娠中、乳幼児を連れた方を優先して乗車させていただきたい」「どうか、国民一人ひとりが、冷静に行動し、いたわり合い、支え合う精神で、どうかこの難局を共に乗り切っていただきたい」などと訴えている。
平田氏はパソコンで草案を書き、鈴木氏に渡した。福島原発事故の放射能汚染が首都圏に及ぶ可能性が少なくなったことから、公表しなかった。
鈴木氏は本紙の取材に「官邸の指示ではない。私が独断で準備した」と説明。ただ、原発事故の影響がさらに拡大すれば、菅首相らに提案するつもりだったという。平田氏は「談話が必要になる可能性は極めて低いという前提で、シミュレーションとして作った。実際に発表する場合にはさらに専門家を加えた検討が必要だと思っていた」と話した。
首都圏避難を伴う「最悪のシナリオ」をめぐっては当時の近藤駿介原子力委員長が一一年三月二十五日に作成。福島第一原発1~4号機の使用済み核燃料プールが空だきになって燃料が溶融するなどの想定で、首都圏の住民数千万人の避難を示唆する内容だった。
◆私は知らない 菅直人元首相の話
東京を含め五千万人の避難が必要になるという最悪の事態は、事故発生当初から私の頭にあった。スタッフはいろんなことを想定して準備する。ただ私は(首相談話草案の存在を)知らないし、見たのも初めて。本当に避難が必要になった場合は、特別立法を含めて何らかの手だてをしたはずだ。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201602/CK2016022002000148.html(東京新聞・リンク切れ)
福島事故 首相談話草案全文 妊婦、乳幼児連れの方 優先乗車させて 2016年2月20日
東京電力福島第一原発事故の際、当時の菅直人・民主党政権下で作成された首相談話の草案全文は以下の通り。
この度(たび)の福島第一原子力発電所の大規模事故にあたり、多くの国民のみなさまに大きな不安をお与えしていることを、改めてお詫(わ)び申し上げます。
特に、これまで四十年間、首都圏の電力を支えてきてくださった大熊町、双葉町の皆様(みなさま)、近隣市町村、福島県民の皆様、隣接する茨城県、宮城県の皆様には、本当に多大なご迷惑をおかけし、お詫びの言葉もございません。申し訳ありませんでした。
この度の事故は、政府、経済産業省はじめ関係諸機関、東京電力のいずれにも、多大な責任があり、今後、事態が収拾したのち、きちんとした反省、検証のみならず、責任の追及を行っていく所存です。
しかしながら、いまは、政府、東京電力、自衛隊、消防庁など関係諸機関、そして全国民の総力を挙げて、被害を最小限に食い止めなければなりません。どうか、その点をご理解いただければと存じます。
福島第一原子力発電所は、廃炉を前提として、とにかく、被害を最小限に抑えるように、今後も全力を挙げて対策を講じてまいります。
しかしながら、いまの時点において、国民のみなさまの健康に影響を及ぼす被害の可能性が出てまいりましたので、その点をご報告させていただきます。
まず、お願いしたいのは、現在の放射線量から考えて、いま、すぐに健康被害が起こるわけではありませんので、どうか落ち着いて、各自、冷静に対処、行動をしていただきたいということです。
繰り返します。今すぐに健康被害が起こるような事態は起こっておりません。これからの説明をよく聞いていただき、国民各位が、冷静な行動をとっていただきますようにお願いいたします。
まさに、いま、日本国民の叡智(えいち)、理性、自制心が問われています。
なにとぞ、よろしく、ご協力ください。
まず、立ち入り禁止区域を、現在の20キロ圏内から、○○キロ圏内に拡大いたします。これは、念のため、最悪の事態を想定しての避難です。
○○圏内というのは、放射性物質の拡散による直接の健康被害が起こりえる、最大限の距離をとっています。この圏内の皆様には、たいへんなご心配とご不便をおかけいたしますが、どうかご協力いただきたい。
すでに関係する自治体には連絡を取っており、現在、避難経路などを策定、指示をしていただいております。各自治体の指示に従って、ゆっくりと、焦らずに避難を行ってください。繰り返しますが、すぐに危険が迫っているわけではありません。念のため、最悪の事態を想定しての避難ですので、ゆっくりと避難をしてください。
なお、この区域の皆様には、今回の事故の安全確認が完了するまで、○か月以上の長期間の避難をお願いせざるをえません。まことに申し訳ありませんが、ご不便に耐え、安全確保にご協力いただきたいと思います。
政府としても、最大限の支援を行ってまいります。避難の長期化が避けられない地域に関しましては、政府が責任を持って、全面的に持続的な支援を行い、ご不便を最小限に抑えます。
また、放射線量の推移を見ながら、定期的に、車両などを出して、各家庭からの必要な生活用品の移動なども支援いたします。
なお、大熊町、双葉町の住民の皆さまには、最悪の場合、数年の単位で将来的にも居住が難しくなることが予想されます。完全移住も含めて、政府と自治体で対応を協議してまいります。地元住民の皆様の、政府、東京電力への信頼を裏切るような結果となってしまったことを、重ねてお詫び申し上げます。
さらに屋内待避区域を、現在の30キロ圏内から○○キロ圏内に拡大いたします。繰り返しになりますが、立ち入り禁止を指示した○○圏内は、放射性物質の拡散による直接の影響が起こりえる、最大限の距離をとっています。ですから、屋内待機区域は、けっして、24時間外出禁止という区域ではありません。あくまでも念のための措置です。
外出時の注意は別途申し上げますので、極力外出を避けていただければ、健康被害は防げます。
この地域の皆様にも、食料など生活必需品の配給を責任を持って行いますので、ご協力ください。
また圏外避難をご希望される皆様にも、西日本の自治体にも協力を仰ぎ、受け入れ体制を整えます。
今日、明日、健康被害が出るわけではありません。どうか慌てずに行動してください。
それ以外の周辺地域の皆様に、健康被害の可能性について申し上げます。
お手元の資料をご覧ください。
妊娠中の方、乳幼児、○○歳以下の子ども、40歳未満の成人、40歳以上の成人について、距離別の想定される健康被害の可能性をお示ししました。
またこの数値は、風向きによって大きく変化しますが、強風の風下に立った場合の、最悪の状況を想定しての数字となっております。
たとえば、50キロから100キロの地域では、○○歳以下の子どもの、十年以内の甲状腺癌(がん)発症の可能性が、○○%から○○%となっています。屋内待避を続けていただければ、この数値は、大幅に下がります。
他の地域でも同様に、屋内待避を続けていただければ、長期にわたる健康被害の可能性が、大幅に低下します。
ただ、比較的安全な○○キロ圏外の皆様でも、妊娠中の方、乳幼児をお持ちの方が、それでも不安を感じられるということは否定できません。こうした方々の不安に応えるためにも、ぜひ全国民にご了解いただきたいのですが、西日本に向かう列車などに、妊娠中の方、乳幼児を連れた方を優先して乗車させていただきたい。
くりかえしますが、成人に、すぐに健康被害が出るわけではありません。100キロ圏内に、一週間以上とどまっていても、屋内待避を続けていれば、健康被害は起こりません。どうか、理性と、強い自制心を持って、この最大の国難に、国民一丸となって対処していただきたいと存じます。
放射線の量は、風向きなどで刻一刻と変化します。ふさわしくない喩(たと)えかもしれませんが、花粉の飛散に似ています。政府は、各地の放射線量の情報を逐次、国民のみなさまに提供し、待避、外出の指針としていただくよう努めてまいります。
なお、念のため申し上げておきますが、この度の原発事故では、チェルノブイリ原発事故で起こったような放射性物質の大量拡散、いわゆる「死の灰」の飛翔(ひしょう)、大気に乗っての拡散の可能性はありません。放射線の拡散だけならば、政府の指示に従って充分な距離を置けば被害は防げますし、また時間をおけば、安全性の回復が望めます。この点をご信頼いただき、冷静な行動をとっていただくことをお願いいたします。
政府は、全力を挙げて、事故対策、避難支援、生活支援に取り組みます。しかしながら、ことここに至っては、政府の力だけ、自治体の力だけでは、皆様の生活をすべてお守りすることができません。どうか、国民一人ひとりが、冷静に行動し、いたわり合い、支え合う精神で、どうかこの難局を共に乗り切っていただきたいと願います。
重ねて、政府、東京電力の不手際をお詫びし、国民全般の最大限のご協力をお願いいたします。
※文中の「○○」など草案全文は原文のまま。避難の範囲や期間など具体的な数値は、発表時の状況に対応できるよう空白とされた。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201602/CK2016022002000157.html(東京新聞・リンク切れ)