当件は、野田内閣、細野環境大臣の時の話ですが、震災関連ということで、ここでまとめます。
2016年2月、安倍政権の丸川環境大臣が東日本大震災の後の除染基準が「年間1ミリシーベルト以下になっているのは科学的根拠がなく、当時の環境省細野豪志氏が決めた」と発言して、細野氏が激怒、撤回した事件がありました。まずはその経緯について、下記夕刊フジの記事をご覧ください。
丸川環境相の除染基準発言 民主・細野氏がかつて書いたブログを見ると… 2016.02.16
丸川珠代環境相は先週末、除染の基準が「年間1ミリシーベルト以下」となっている点について、「何の科学的根拠もなく時の環境相(=民主党の細野豪志氏)が決めた」と発言したことを撤回し、謝罪した。ただ、「平時」の基準を、原発事故後の「緊急時」に適用したことについては、「復興を妨げている」という指摘もある。原発やエネルギー問題に精通するジャーナリストの石井孝明氏が考察した。
報道によると、丸川氏は長野県での講演で、除染について、(1)科学的根拠がない(2)民主党の政策が失敗した(3)住民の帰還が遅れている-という3点を指摘した。彼女の理解の程度は不明だが、実はいずれも正しい。
国際放射線防護委員会(ICRP)は08年の勧告で、原子力災害での放射線の被ばくは「収束過程では1ミリシーベルトから20ミリシーベルトを目標にし、長期的に平時の1ミリシーベルトを目指すべきだ。その基準は住民参加で決めるべきだ」と提案した。
これは自然被ばく量(=世界平均で年間2・4ミリシーベルト)を大きく上回らない目安としての提案であり、20ミリシーベルトを超えれば病気になるといった科学的根拠のある数字ではない。
民主党政権時代の日本政府は、この勧告を参考にして、原発事故直後の11年夏に有識者の勧告を受けて、1~20ミリシーベルトを被ばく基準にし、当面の除染では年間5ミリシーベルトを目指すと決めた。
ところが、福島県の自治体が「低くしてほしい」と要望したため、細野氏は年間1ミリシーベルト以下を目指すと決めた。一度決めた政策を変えたのは、細野氏ら民主党の政治主導によるものだ。
結果は、国と地域に大変な負担をもたらした。
除染は表土や堆積物を取り除く形で行われるが、徹底して実施するほど時間と手間がかかる。政府は除染の見込み額を約2・5兆円と試算したが、15年度まで累計約1・8兆円に膨らんだ。まだ手つかずの地域もあり、見込み額を大幅に上回りそうだ。
除染では、推計最大2200万立方メートル(=東京ドーム約17・6個分)の廃棄物が発生する。福島県では各所で除染廃棄物が山積みになっている。中間貯蔵施設の建設が遅れ、廃棄物を持ち出せないためだ。
除染をせずに放置しても、住民に健康上の影響はなかっただろう。年間数ミリシーベルトの被ばく量の増加で、健康被害が起こった例は過去にない。除染による膨大な費用と社会的混乱に、応分のメリットがあったとは思えない。民主党の政策は失敗したのだ。
細野氏は批判に応えて、13年3月4日のブログで「福島の声で決めた」「1ミリシーベルト除染の目標は、健康の基準ではない」と、事実上、科学的根拠がないことを自ら認めている。
細野氏と民主党の政治家がすべきだったのは、人々を説得して失敗が予見された1ミリシーベルト除染政策を止めることだった。そして、自民党政権も惰性で現在の政策を続けているのは問題だ。除染を限定的にする方向に是正しなければ、負担が拡大して福島の復興は遅れ続けるだけだ。
https://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20160216/plt1602161140002-n1.htm(夕刊フジ・zakzak)
民主党政権時代に年間1ミリシーベルトの必要以上に低い除染目標を定めたために、除染にかかる時間と手間とコストが膨大になってしまったのです。その年間1ミリシーベルトの目標は「福島の声」で決まり、健康の基準でない」ことを細野氏自身のブログに書かれているということです。
まずは、その細野氏のブログをチェックしてみましょう。2013年3月のことです。
ソーシャルメディアの可能性 2013-03-04
マスメディアにおいては、我々は、まな板の上の鯉です。政治家がマスメディアの記事の訂正を求めても、ほとんど反映されることはありません。
2013年3月3日の読売新聞の一面に、「帰還を阻む1ミリ・シーベルト」という大きな記事が出ています。当時、環境大臣だった私が1ミリ・シーベルトという目標を独断で決めたかのように書かれています。当時の経緯を最もよく知る私に、取材はありませんでした。控えめに言って、記事には事実を踏まえていない部分があります。
まず、当時の福島県民の皆さんの声です。私が環境大臣に就任した当時、多くの福島の皆さんの意見は、1ミリ・シーベルトまで国が責任を持って除染をするべきであるというものでした。事故直後の県民の皆さんの心情を考えると当然のことです。
2011年9月23日には、福島県市長会から、5ミリ・シーベルト未満についても、国が責任を持って除染をすべきであるという抗議文が出されています。また、10月17日の第2回原子力災害からの福島復興再生協議会で、佐藤知事も要望されています。1ミリ・シーベルトという目標は、それらの声を反映して設定されました。
事故に責任のある国は、放射性物質を除去する責任があります。私は、その責任から逃げるべきではないと考え、除染の陣頭指揮をとりました。
当時は、全くゼロから除染に取り組まねばなりませんでした。事業に慣れてない環境省の職員を叱咤激励し、職員も大幅に増員しました。事業者を呼んで除染に取り組むことを要請し、技術の公募もしました。そして、ようやく除染が動き出しました。
一方で、1ミリ・シーベルトという除染の目標は、健康の基準ではないこと、帰還の基準でもないことは、私自身が再三、指摘していました。記事の最後に専門家の意見が書かれていますが、原発大臣として、低線量被曝についてのワーキングチームを設置し、そういった内容の発言もしていました。
事故から2年。今も福島の皆さんに大変なご負担とご心配をおかけてしています。除染よりも、賠償や帰還を優先したいという声があることは、私も耳にしています。特に、地元の声には謙虚に耳を傾け、柔軟に対応すべきです。
しかし、当時の経緯を十分に確認せずに結論だけを押し付ける検証記事には、疑問を感じます。おそらく、この投稿には、自己正当化するなという厳しいご意見が寄せられるでしょう。それでも、私が書くことにしたのは、ソーシャルメディアの可能性を試してみようと考えたからです。
https://blog.goo.ne.jp/mhrgh2005/e/2e2b931e1cae57e45b4346515e09b7b8(細野氏)
マスコミに喧嘩を売っているのかとも取れるブログです。確かに1ミリシーベルトは健康の基準でも帰還の基準でもないことが明記されています。
「2011年9月23日には、福島県市長会から、5ミリ・シーベルト未満についても、国が責任を持って除染をすべきであるという抗議文が出されています。また、10月17日の第2回原子力災害からの福島復興再生協議会で、佐藤知事も要望されています。1ミリ・シーベルトという目標は、それらの声を反映して設定されました。」
これだけを読むと、あたかも福島の人々が「風評被害を抑えるために1ミリシーベルトに下げて欲しい。」と国にお願いしたように見えます。
しかし、実情は違うと思います。
というのは、元々環境省は年間5ミリシーベルト以上の地域を除染対象にすると発表していたからです。1ミリシーベルトというのは、長期目標であったわけです。
ところがこれは、「5ミリシーベルト以上は国が責任を持って実施するが、それ未満は自治体の費用でお願いします。」ということだったのです。こういう言い方をされたら自治体が文句を言うのは当然です。「ここまでは国の金、後は自治体お願いね。」
朝日新聞と毎日新聞の記事の抜粋をご覧ください。
年間5ミリシーベルト以上地域、国が除染へ 環境省方針 2011年9月27日
東京電力福島第一原発事故に伴い、国の責任で実施する放射性物質の除染について、環境省は原則として年間の追加被曝(ひばく)線量が5ミリシーベルト以上の地域を対象とする方針を固めた。都市部の側溝など、線量が局所的に飛び抜けて高く、生活への影響も大きいホットスポットは1ミリシーベルト以上とする。森林では土壌は除去せず落ち葉の回収でも対応可能とした。土壌や落ち葉などの総除去量は最大で東京ドーム23杯分の約2900万立方メートルになる。
除染基準をめぐっては、政府が8月に示した除染の緊急実施基本方針で、平常時の年間許容量とされる1ミリシーベルトを長期的に目指すとしてきた。環境省は今回、5ミリシーベルトを原則とした根拠について、それ以下の低線量地域では表土を削るなどしても効果が上がりにくいことなどを挙げた。セシウムの一部が2年で半減期を迎えることなど自然減の効果もあわせて、1ミリシーベルトを目指すという。
同省は27日、有識者による「環境回復(除染)検討会」の会合を開き、試算結果を示した。5ミリシーベルト以上の地域はすべて福島県内といい、県面積の13%に当たる約1778平方キロ。
土壌の除去は、セシウムが集まる地表から深さ約5センチまでを基本とする。森林では土壌は除去せず、文部科学省の調査などをもとに、落ち葉の回収や枝打ちで除染できるとしている。葉や枝は同じ面積当たりの除去量が土壌の5~6分の1で済み、さらに焼却などで減量できる。対象面積の約7割を占める森林での土壌除去を回避することで総除去量を減らせるという。
都市部の側溝や雨どいなど、局所的に年間の被曝線量が高いホットスポットは、福島県と隣接する4県だけで約640平方キロあるが、高圧水で洗い流すなどの対応が中心のため、除去土壌は40万立方メートル程度にとどまると試算。仮置き場や中間貯蔵施設の規模にあまり影響がないという。
環境省はこの日の検討会で有識者らの理解が得られたとして、10月10日の次回の検討会では、除染対象の地域指定や汚染状況の調査方法、土壌の収集・運搬指針などの除染基準案を提示する方針だ。(森治文)
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201109270505.html(朝日)
福島第1原発:帰還完了へ道険しく…避難準備区域解除 2011.10.01
◇除染費用負担で火種
住民の帰還のため最重要なのは、放射性物質の汚染を取り除く除染だ。
だが、環境省は準備区域解除に先立つ27日、年間被ばく線量が5ミリシーベルト未満の地域の除染については国の財政支援の対象外とし、原則自治体負担とする方針を打ち出した。
「納得できない。国が全ての費用を持つべきだ」。南相馬市の桜井勝延市長は不快感をあらわにした。
南相馬市は20キロ圏内の警戒区域、20キロ圏外の計画的避難区域と緊急時避難準備区域、それに区域外が混在。
せっかく準備区域が解除されても、5ミリシーベルトで扱いが分かれれば、国の対応に新たな線引きが生じることになる。
市内全域の除染に向け、動きの鈍い国を尻目に同市は早々と独自のマニュアルを作り、6月から学校や公園など公共施設の除染に力を入れてきた。
これも国の支援が大前提。
解除直前の環境省の方針に、桜井市長の怒りは収まらない。
「国の対応は場当たり的。全域除染という市の方針は変えない。関係自治体と連携し、国に全面支出を求めていく」
5市町村で最も早い来年3月末の住民帰還完了を復旧計画に明示した川内村の遠藤雄幸村長も「国と協議して(全域除染を前提に)復旧計画を作った。今になってはしごを外すようなまねは認められない」と憤る。
全町避難で会津美里町に町役場を移転している楢葉町の草野孝町長は「国の試算では除染に1ヘクタール当たり7000万円以上かかる。税収もない状態で負担しろというのか」と国に不満をぶつけた。
政府は8月に策定した除染に関する基本方針で「国は財政措置などの支援を実施する」と明記。
細野豪志原発事故担当相は9月30日の記者会見で、11年度補正予算や12~13年度の予算要求を通じて、「計1兆1482億円という大きな予算を組む。これで確実に除染を徹底したい」と述べ、1~5ミリシーベルトの場所でも自治体が除染すれば国が費用負担する考えを示した。
だが、本格的な除染方針や具体的な基準は検討中で、自治体への財政支援の範囲も明示されてはいない。
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20111001k0000m040126000c.html(毎日)
年5ミリシーベルト未満の除染費用は自治体持ちと発表したら、自治体が文句を言い始めて、あわてて国の基準値を1ミリシーベルトに下げた。それを「福島の要望、福島の声」があったから下げたという風に、ごまかしているようにしか見えないのですけれど・・。写真は除染作業を視察する細野環境大臣。朝日新聞から
そもそも年5ミリシーベルト以上を除染と決めた際に、年5ミリシーベルトでは健康被害は起きないことを自治体と国民に対して徹底して広報した上で、長期的に1ミリシーベルトを目指す。それには〇〇年を要し、その過程は〇〇→〇〇→〇〇を実施、最終的に1ミリシーベルトを目指す。その過程に関しての費用に関しては、自治体で負担をお願いしたいというような具体的なスケジュールと方策を持って説得すべきところだったのでしょう。
それをいきなり「5ミリシーベルト以上は国が持つから、それ未満はお前ら自治体持ちな!」と上から目線で来たら、誰だって怒ります。
結局は、政府から自治体への説明不足と細野環境大臣のリーダーシップの欠如が、科学的根拠のない年間1ミリシーベルトの除染目標を生み出してしまったのです。そして莫大な無駄な経費と時間と手間がかかることになり、復興の遅れを招いているのです。
無能な政治家集団であった民主党政権が生み出す、根拠のない政策、無駄な時間とコスト。それが日本の悪夢 の正体だったのです。
ぜひ、こちらの記事もご参考ください。
追記 2019年12月22日)細野氏からのツイッターでのリプライを貼っておきます。